夕映えのはな 5

夕映えのはな そう、わたしには、この部落にもう一人の同級生がいた。高山栄一は、近隣数部落を跨いで小作・自小作農家を取り纏める地主の跡取り息子だった。松之山郷にして、なお山間僻地の急斜面五十町歩所有は豪農と呼んで決して過言ではあるまい。いわゆ…

夕映えのはな 4

夕映えのはな 「なあ、サヤちゃん・・・」「・・・んー?」「サヤちゃん、絵、うめなあ・・・」「んん、ん。トミちゃんのほうがじょうずだよ」農繁期の田植え時期を終えて久々に顔を合わす、りえ先生とわたしたち。沙耶に至っては、小学校入学式当日から数日…

夕映えのはな 3

昭和六年、晩秋の、四方の山々を彩る実りの便りが一気に麓の町にも駆け下りる頃、例年になく逸早い初雪が舞い降りていた。世に吹き荒れる不景気風や、不安定な生糸相場に四苦八苦する製糸紡績業界。だが、当時その強力な煽りの大方を引き受けてくれたのが繭…

夕映えのはな  2

当然、入ったばかりの光恵にとっても、それほど甘い環境ではなかったはずだ。先輩工女たちの、決死の労働争議の末に勝ちとった「自由外出」や「夜の労働禁止」など、ようやくここにきて認められたものなのだ。逃げ出せないよう寮の門に施錠した一切外出禁止…

夕映えのはな

夕映えのはな 向こう側の空が朱色に染まり、連なる山並みのシルエットが浮かび上がっていた。富子は、刻々と沈み行く太陽を見るのが好きだった。今ようやく代掻きも済んで、満々と水を張られた棚田が眼下に広がっている。その小さく仕切られた一つ一つの田ん…