2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

夕映えのはな 4

夕映えのはな 「なあ、サヤちゃん・・・」「・・・んー?」「サヤちゃん、絵、うめなあ・・・」「んん、ん。トミちゃんのほうがじょうずだよ」農繁期の田植え時期を終えて久々に顔を合わす、りえ先生とわたしたち。沙耶に至っては、小学校入学式当日から数日…

夕映えのはな 3

昭和六年、晩秋の、四方の山々を彩る実りの便りが一気に麓の町にも駆け下りる頃、例年になく逸早い初雪が舞い降りていた。世に吹き荒れる不景気風や、不安定な生糸相場に四苦八苦する製糸紡績業界。だが、当時その強力な煽りの大方を引き受けてくれたのが繭…

夕映えのはな  2

当然、入ったばかりの光恵にとっても、それほど甘い環境ではなかったはずだ。先輩工女たちの、決死の労働争議の末に勝ちとった「自由外出」や「夜の労働禁止」など、ようやくここにきて認められたものなのだ。逃げ出せないよう寮の門に施錠した一切外出禁止…

夕映えのはな

夕映えのはな 向こう側の空が朱色に染まり、連なる山並みのシルエットが浮かび上がっていた。富子は、刻々と沈み行く太陽を見るのが好きだった。今ようやく代掻きも済んで、満々と水を張られた棚田が眼下に広がっている。その小さく仕切られた一つ一つの田ん…